妙法蓮華経 化城諭品 第七

 

譬えば 五百由旬の 険難 悪道の 曠かに絶えて 人なき怖畏の処あらん 若し 多くの衆あって 此の道を過ぎて 珍宝の処に 至らんと欲せんに 一りの導師あり 聡慧 明達にして 善く険道の 通塞の相を知れり 衆人を将導して 此の難を過ぎんと欲す 

所将の人衆 中路に懈怠して 導師に白して言さく 我等 疲極して 復 怖畏す 復 進むこと能わず 前路 猶お遠し 今 退き 還らんと欲すと 導師 諸の方便 多くして 是の念を作さく 此れ等 愍むべし 云何ぞ 大珍宝を捨てて 退き還らんと欲する 

是の念を作し已って 方便力を以て 険道の中に於て 三百由旬を過ぎ 一城を化作して 衆人に告げて言わく 汝等 怖るることなかれ 退き 還ること 得ることなかれ 今 此の大城 中に於て 止って 意の所作に随うべし 若し 是の城に入りなば 快く安穏なることを得ん 若し 能く前んで 宝所に至らば 亦 去ることを得べし 

是の時に 疲極の衆 心 大に歓喜して 未曾有なりと歎ず 我等 今者 斯の悪道を免れて 快く 安穏なることを得つ 是に 衆人 前んで化城に入って 已度の想を生じ 安穏の想を生ず 

爾の時に導師 此の人衆の 既に止息することを得て 復 疲倦無きを知って 即ち 化城を滅して 衆人に語って 汝等 去来 宝処は 近きに在り 向の大城は 我が化作する所なり 止息せんが為のみと言わんが如し

諸の比丘 如来も 亦復 是の如し 今 汝等が為に 大導師と作って 諸の生死 煩悩の悪道 険難 長遠にして 去るべく 度すべきを知れり 若し 衆生 但 一仏乗を聞かば 則ち 仏を見んと欲せず 親近せんと欲せじ 便ち 是の念を作さん 仏道は 長遠なり 久しく 勤苦を受けて 乃し 成ずることを得べしと 

仏 是の心の 怯弱下劣なるを知しめして 方便力を以て 中道に於て 止息せんが為の故に 二涅槃を説く 若し 衆生 二地に住すれば 如来 爾の時に 即ち 為に説く 汝等は 所作未だ弁ぜず 汝が所住の地は 仏慧に近し 当に観察し 籌量すべし 所得の涅槃は 真実に非ず 但 是れ 如来 方便の力をもって 一仏乗に於て 分別して 三と説く 

彼の導師の 止息せんが為の故に 大城を化作し 既に 息み已んぬと知って 之に告げて 宝所は近きに在り 此の城は 実に非ず 我が 化作ならくのみと 言わんが如し

 

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