妙法蓮華経 信解品 第四

 

即ち 傍人を遣わして 急に追うて 将いて還らしむ 爾の時に使者 疾く 走り往いて捉う 窮子 驚愕して怨なりと称して 大に喚ばう 我 相犯さず 何ぞ 捉えらるることを為る

使者 之を執うること 愈急に 強いて牽将いて還る 時に窮子 自ら念わく 罪なくして 囚執えらる 此れ 必定して死せん 転た 更に 惶怖し 悶絶して 地に躄る

父 遥かに之を見て 使に語って言わく 此の人を須いじ 強いて 将いて来ること勿れ 冷水を以て 面に灑いで 醒悟することを得せしめよ 復 与みし 語ることなかれ 所以は何ん 父 其の子の 志意下劣なるを知り 自ら 豪貴にして 子の為に 難からるるを知って 審かに 是れ子なりと知れども 而も 方便を以て 他人に語って 是れ 我が子なりと 云わず 使者 之に語らく 我 今 汝を放す 意の所趣に随え 窮子 歓喜して 未曾有なることを得て 地より起きて 貧里に 往至して 以て 衣食を求む

爾の時に長者 将に 其の子を 誘引せんと欲して 方便を設けて 密かに 二人の 形色 憔悴して 威徳なき者を遣わす 汝 彼に詣いて 徐く窮子に語るべし 此に作処あり 倍して 汝に直を与えん 窮子 若し許さば 将い来りて作さしめよ 若し 何の所作をか 欲すと言わば 便ち 之に語るべし 汝を 雇うことは 糞を除わしめんとなり 我等 二人 亦 汝と共に作さんと 時に 二りの使人 即ち 窮子を求むるに 既已に之を得て 具さに 上の事を陳ぶ 爾の時に窮子 先ず 其の 価を取って 尋いで 与に 糞を除う 其の父 子を見て 愍んで之を怪む

又 他日を以て 窓ドの中より 遥に 子の身を見れば 羸痩 憔悴し 糞土 塵ボン 汚穢 不浄なり 即ち 瓔珞 細軟の上服 厳飾の具を脱いで 更に 麁弊 垢膩の衣を著 塵土に身をケガし 右の手に 除糞の器を執持して 畏るる所あるに 状れり 諸の作人に語らく 汝等 勤作して 懈息すること 得ること勿れと

方便を以ての故に 其の子に近づくことを得つ 後に 復 告げて言わく 咄や男子 汝 常に此にして作せ 復 余に去ること勿れ 当に 汝に 価を加うべし 諸の 所須ある 盆器 米麪 塩酢の属あり 自ら 疑い難ることなかれ 亦 老弊の使人あり 須いば 相給わん 好く 自ら意を安くせよ 我 汝が父の如し 復 憂慮することなかれ 所以は何ん 我 年 老大にして 汝 小壮なり 汝 常に作さん時 欺怠 瞋恨 怨言 あることなかれ 都て 汝が 此の諸悪有らんを 余の作人の如くに見じ 今より 已後 所生の子の如くせん

即時に長者 更に 与に 字を作って 之を名けて兒とす 爾の時に窮子 此の遇を欣ぶと雖も 猶故 自ら 客作の賎人と謂えり 是れに由るが故に 二十年の中に於て 常に 糞を除わしむ

 

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