妙法蓮華経 譬諭品 第三

仏 重ねて此の義を 宣べんと欲して 偈を説いて言わく

譬えば長者 一の大宅あらん
其の宅 久しく故りて 復 頓弊し
堂舎 高く 危く 柱根 摧け 朽ち
梁棟 傾き 斜み 基陛 頽れ 毀れ
牆壁 やぶれ さけ 泥塗 褫け 落ち
覆苫 乱れ 墜ち 椽梠 差い 脱け
周障 屈曲して 雑穢 充徧せり

五百人あって 其の中に止住す

鵄 梟 チョウ 鷲 烏 鵲 鳩 鴿
ガン蛇 蝮 蠍 蜈蚣 蚰蜒
守宮 百足 鼬 貍 ケイ 鼠
諸の 悪虫の輩 交横馳走す
屎尿の臭き処 不浄流れ溢ち
コウロウ 諸虫 而も 其の上に集まり
狐 狼 野干 咀嚼 践ドウし
死屍をザイ齧して 骨肉狼藉し
是れに由って 群狗 競い来って 搏撮し
飢羸ショウ惶して 処処に食を求め
闘諍 シャ掣し 啀ザイ ゴウ吠す

其の舎の恐怖 変ずる状 是の如し
処処に皆 魑魅 魍魎
夜叉 悪鬼あり 人肉
毒虫の 属を食ダンす 諸の 悪禽獣
孚乳産生して 各 自ら 蔵し護る
夜叉 競い来り 争い取って 之を食す
之を食して 既に飽きぬれば 悪心 転た熾んにして
闘諍の声 甚だ怖畏すべし
鳩槃荼鬼 土ダに蹲踞せり
或時は 地を離るること 一尺二尺
往返遊行し 縦逸に嬉戲す
狗の両足を捉って 撲って声を失わしめ
脚を以て 頚に加えて 狗を怖して 自ら楽しむ
復 諸鬼あり 其の身 長大に
裸形黒痩にして 常に其の中に住せり
大悪声を発して 叫び呼んで 食を求む
復 諸鬼あり 其の咽 針の如し
復 諸鬼あり 首 牛頭の如し
或は 人の肉を食い 或は 復 狗をクラう
頭髪蓬乱し 残害兇険なり
飢渇に逼まられて 叫喚馳走す

夜叉 餓鬼 諸の 悪鳥獣
飢 急にして 四に向い 窓ドを ウカガい看る
是の如き諸難 恐畏無量なり

是の 朽ち故りたる宅は 一人に属せり
其の人 近く出でて 未だ 久からざるの間

後に 宅舎に 忽然に火起る
四面 一時に 其の焰 倶に熾んなり
棟梁 椽柱 爆声 震裂し
摧折 堕落し 牆壁 崩れ倒る

諸の鬼神等 声を揚げて大に叫ぶ
チョウ 鷲 諸鳥 鳩槃荼等
周ショウ惶怖して 自ら出ずること能わず

悪獣 毒虫 孔穴に蔵竄し
毘舎闍鬼 亦 其の中に住せり
福徳 薄きが故に 火に逼まられ
共に 相 残害して 血を飲み 肉をクラう
野干の属 竝に 已に 前に死す
諸の 大悪獣 競い来って 食ダンす
臭煙 蓬ボツして 四面に充塞す

蜈蚣 蚰蜒 毒蛇の類
火に焼かれ 争い走って 穴を出ず
鳩槃荼鬼 随い取って食う
又 諸の餓鬼 頭上に火燃え
飢渇 熱悩して 周ショウし 悶走す

其の宅 是の如く 甚だ怖畏すべし
毒害 火災 衆難 一に非ず

 

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