妙法蓮華経 譬諭品 第三

是の時に長者 諸子等の 安穏に 出ずることを得て 皆 四衢道の中の 露地に於て坐して 復 障礙無く 其の心 泰然として 歓喜踊躍するを見る 時に 諸子等 各 父に白して 言さく 父 先に 許す所の 玩好の具の 羊車 鹿車 牛車 願わくは 時に 賜与したまえ

舎利弗 爾の時に 長者 各 諸子に 等一の大車を賜う 其の車 高広にして 衆宝 荘校し 周ソウして 欄楯あり 四面に鈴を懸け 又 其の上に於て ケン蓋を張り設け 亦 珍奇の雑宝を以て 之を厳飾し 宝縄絞絡して 諸の華瓔を垂れ オンネンを重ね敷き 丹枕を安置せり 駕するに 白牛を以てす 膚色充潔に 形体シュ好にして 大筋力あり 行歩平正にして 其の 疾きこと風の如し 又 僕従多くして 之を侍衛せり 所以は何ん 是の 大長者 財富無量にして 種種の庫蔵 悉く 皆 充溢せり 而も 是の念を作さく 我が財物 極まりなし 下劣の小車を以て 諸子等に 与うべからず 今 此の幼童は 皆 是れ吾が子なり 愛するに偏黨なし 我 是の如き 七宝の大車あって 其の数無量なり 当に 等心にして 各各に之を 与うべし 宜しく 差別すべからず 所以は何ん 我が此の物を以て 周く 一国に給うとも なお 匱しからじ 何に況んや 諸子をや 是の時に 諸子 各 大車に乗って 未曾有なることを得るは 本の所望に 非ざるが若し

舎利弗 汝が意に於て云何 是の長者 等しく諸子に 珍宝の大車を 与うること 寧ろ 虚妄ありや不や 舎利弗の 言さく 不なり 世尊 是の長者 但諸子をして 火難を免れ 其の躯命を 全うすることを 得せしむとも これ虚妄に非ず 何を以ての故に 若し 身命を全うすれば 便ち 為れ 已に 玩好の具を 得たるなり 況んや復 方便して 彼の火宅より 而も 之を 抜済せるをや 世尊 若し 是の長者 乃至 最小の一車を与えざるも 猶お 虚妄ならじ 何を以ての故に 是の長者 先に 是の意を作さく 我 方便を以て 子をして 出ずることを 得せしめんと 是の因縁を以て 虚妄なし 何に況んや 長者自ら 財富無量なりと知って 諸子を饒益せんと欲して 等しく大車を与うるをや

 

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